「ああ、ここにいたのね。花壇の使用に際して必要な活動実績が未提出だから探していたのよ」
振り返ると、見覚えのある上級生が真顔で私を見つめて、一枚の書類を突き出した。祥が好きなモニカのメンバーであり、生徒会長でもある瑠唯さんだ。
「すいません、書けたらすぐに出しますから〜」
高音のそよがよそ行きの笑みを浮かべて書類を受け取った。
「あ、ルイ発見！　何してんだよ、後輩いじめか〜？」
「いじめてなんかいないわ。書類の提出は週末までだから、書き終わったら生徒会室まで出しに来てちょうだい」
「はい、ありがとうございます〜」
生徒会長への対応を全てそよに任せたわたしはぼんやりとダンボールを手に立ち尽くしていたが、そのやり取りに途中から入ってきたモニカのギターである透子さんが、わたしの手元を興味深そうに覗き込んだ。
「お、何これ。もしかしてここで作ったの？　すげーじゃん」
いかにもギャルっぽい見た目の透子さんがダンボールからきゅうりを一本つまみ出して眺めた。わたしは初対面の相手への対応に窮し、焦りつつも脳内会議を開いた。

『あんまいないタイプだよね』『対みなみちゃんに近い感じで良いんじゃない？』『ギャルは健康に良い！』
結局何もまとまらないままアドリブでの対応を強いられることになり、わたしはぎこちない笑みを浮かべたまま低いトーンで透子さんに応じた。
「はい…美味しいので、良ければ…いかがですか？」
我ながらアドリブにしては上々だと思い、反応を伺うべく上目遣いで透子さんを見てみた。にんまりと口角を上げて笑みを浮かべる透子さんは、手元のきゅうりを戻すと、わたしの腕に被せるように両手でダンボールをつかんだ。
「ラッキー、最高じゃん！　こんなに良いの？」
「桐ヶ谷さん。今のニュアンスは全部って意味じゃないでしょう。図々しいわよ」
冷静に諭す瑠唯さんを尻目にわたしはかぶりを振った。
「いえ…ぜひどうぞ」
「マジか！　良いんだってよ、ルイも欲しかったのかー？」
「家では普段料理をしないから、急にもらっても困るわよ。それにあなたもそうでしょう？」
「いいじゃんいいじゃん、後輩が手塩にかけて育てたんだから。何ならせっかくだし、七深ん家に持って行ってきゅうりパーティしよう、一緒に来る？」

わたしの手から透子さんの手に渡ったきゅうりは食べてもらえる相手が見つかったことで心なしかハリを取り戻してるようにさえ見えた。
そよは気配を殺したままやんわりと後ろに後ずさっていたが、ガシッと手首を掴んでひきずり、二人に向かって頷いた。
「モニカの皆さんときゅうりパーティ…楽しみです」
そよも引きつった笑みを浮かべつつ首肯し、わたしたちはモニカとのきゅうりパーティへと赴くことになった。
祥への自慢話になると思っての参戦だったが、野菜が苦手な倉田先輩がきゅうりは味がないから大丈夫かも…と言い出してきゅうりに味があるか論争が始まって夜が更けたのは予想外だった。

睦だけモニカさんと仲良くなってずるいですわ！

きゅうり…報われてる…

他バンドとの絡みいい…

じゃあ次はゴーヤパーティな！

>じゃあ次はゴーヤパーティな！
うっかりきゅうりパーティに参加したせいで苦手な野菜なのに断れなくなってお腹痛くなってる倉田が目に見える

ギャルは健康に良い！

>『ギャルは健康に良い！』
ムツミちゃんギャル好きか？

>モニカは健康に良い！

そよ…桐ヶ谷先輩を見て顔が引きつってる…

こういうシナリオがガルパにいつか追加される日が来るといいな…