二次元裏@ふたば
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画像ファイル名:1786378290661.png-(133747 B)
133747 B26/08/11(火)01:11:30No.1457385888そうだねx1 04:18頃消えます
「風流だねぇ」
ちりん、と一鳴りした風鈴の音に合わせて、彼女がそう呟いた。それを揺らすのが涼しい朝の風ではなくエアコンの冷風であるのが惜しいところだが、合宿所でも昼間は倒れそうになる昨今の酷暑を思えば、音だけでも夏の詩情を味わえることをよしとすべきなのだろう。
「まあな。去年置いたまま帰ったんだけど、なくなってなくてよかったよ」
「えっ。これ、きみがつけたの?
いいね、もっと素敵に見えてきた」
赤い金魚を模した丸い風鈴をつついて鳴らす彼女はひどく可愛らしかったが、そろそろトレーナーとして言うべきことは言わねばならない。
「一応、ここトレーナー室なんだけど」
「えー、いいじゃん。今暇なんだもん。
でも、いいね。トレーナー室も畳敷きなんだ」
126/08/11(火)01:11:51No.1457385950+
自分もシービーも当然夏合宿のためにここに来ているのだが、今日は休養に充てている。他の友人はトレーニング中なので、構う相手が自分しかいないというのが、ここにいる理由だった。
そんな彼女の仕草は隙を持て余した猫そのもので、畳敷きの部屋を堪能するようにごろりと横になっては、胡座をかいたこちらの足に頭を乗せてくる。
「今日の夜にエースたちが花火大会しようって言っててさ。オフのアタシが買い出しすることになってるんだけど、今暑いでしょ。
夕方になるまでここにいさせてよ」
咎める言葉が口だけというのも、彼女にはとうに気づかれているのだろう。風のようにひとところにとどまらない彼女の居場所になれるのがどれだけ幸せなのかは、彼女自身に散々教えられたことだ。
「…俺も付き合うよ。荷物持ちは多いほうがいいだろ?」
「やった。ふふっ」
ころころと変わる彼女の表情に見惚れて、読もうと思っていた本に目が行かない。手も目も心もすっかり彼女に縫い付けられてしまった自分をからかうように、風鈴がまたちりん、と鳴った。
226/08/11(火)01:12:25No.1457386070+
「随分買っちゃったね」
「そうだな。俺も楽しくなっちゃった」
花火とお菓子と飲み物を満載した買い物袋を二人分の両手に持っていると、近所のスーパーの行き帰りであっても必然的に歩みが遅くなる。只人の自分はもちろん、ウマ娘の彼女もそれは例外ではない。
だが、今はそれでいいかなとも思う。心が動くと脚が走り出す彼女と同じ速さで歩ける機会は、そうそうあるものではない。潮風に靡く長い髪も、すらりと伸びた鼻筋に彩られた整った横顔も、今なら好きなだけ見つめていていいのだ。
何度も見ているはずの顔に何度でも惚れ直してしまうのは、物覚えが悪い証拠だろうか。それでも、茜色の夕陽が溶けた彼女の瞳の色は、今まで見たどんな宝石よりも綺麗に見えたのだった。
326/08/11(火)01:12:47No.1457386137+
「ん…!」
「あ、ごめん。びっくりした?」
買い物袋を片方の手に持ち替えて、もう片方の手で彼女の手を握ったはいいが、彼女の表情が思いの外驚いたようなものに変わっていて、こちらが不意打ちを受けたようになってしまった。
手を繋ぐことなど何度もしてきたはずなのに、今更のように付き合いたての少女のような反応をする彼女を見ていると、女心というのは複雑怪奇だなと思わざるを得ない。何も言わずにこちらから手を握ったことは、確かになかったかもしれないけれど。

改めてもう一度、今度は許可を求めるようにゆっくりと彼女の手の甲に指先を触れさせる。今度は彼女も驚くことなく、ゆっくりと指を絡めてくれる、はずであった。
握りかけた指がするりと手の中から抜けてゆく。隣の彼女の顔は、今度は悪戯を思いついた悪童のようなそれに変わっていた。
「あそこ、穴場なんだよ。海に沈む夕陽がすごく綺麗なんだ」
彼女が指を差したのは、湾曲した道路の先に開けた海岸だった。ここは普段、皆がトレーニングをする砂浜とは反対側にある。わざわざ脚を伸ばさなければ見つからないのだろう。
426/08/11(火)01:13:02No.1457386174+
いつもの砂浜の正面には小島があって、夕暮れ時にはその島が沈む太陽を一足先に隠してしまうことがある。だから海に沈む本当の夕陽を見たいと思えば、場所を変える他にないのは確かだった。
それを彼女がこっそり知っていることには何の不思議もなかったが、次に彼女がとった行動には、先の彼女よりもずっと驚かねばならなかった。
両手に持っていた買い物袋を突然取り上げられて、急に軽くなった腕の置き場がなくなる。
「浜辺まで競走しようよ。荷物は持っててあげるから。
負けたほうが勝ったほうの言う事をなんでもひとつ聞くっていうのはどう?」
「え、そりゃ無茶じゃ──」
「いくよー、よーい、どん」
制止する声を置き去りにして、笑顔だけを残して走り去っていく彼女は、もうすっかりいつも通りだった。
526/08/11(火)01:13:26No.1457386250+
草原を撫でる一陣の風になって、皆の間を吹き抜けるように走るのが好きだ。だからアタシは走るときに、いつも前を見ている。エースのように自分のリードを確認するために後ろを見やることはほとんどない。
だが、たまにはそれも悪くないかもしれない。後ろを振り返るのは、きみと走るときだけだからだ。
「大丈夫ー?苦しくないー?」
アタシにとっては早歩きと同じくらいの速さだったけれど、やはりヒトの彼にはそれも厳しいらしい。彼のつく荒い息が、アタシの耳にもはっきり届く。

何も言わずに手を握られたことに、どうしてあんなに胸を高鳴らせてしまったのか、自分でもわからない。
彼はいつもアタシへの気持ちに嘘をつかないでいてくれるけれど、それでも良識のある大人の顔は崩さなかった。触れていたいと思うときは、いつもアタシからそうしていた。
だから、少し驚いてしまったのだ。どんなに優しい大人でいても、ちゃんときみはアタシを欲しがっているんだって。
それでもやっぱり、少し意地悪が過ぎただろうか。別に勝ち負けを競うために始めたことではないけれど、弱いものいじめで憂さ晴らしをしたいわけでもなかったのだから。
626/08/11(火)01:13:41No.1457386298+
結果など始めから見えている、馬鹿馬鹿しい子供の遊びだ。早々に勝負を放って歩いていたとしても、誰も責める権利を持たないだろう。彼に声をかけたのは、半ばそういう諦めもあった。
「ちょっと待っててもいいよー?」
それなのに、どうして。
「大丈夫…!
絶対、追いつく、から…!」
きみの目は、そんなにきらきら光っているんだろう。

どんなに気ままに振る舞っても、アタシはまだ子供のままだ。好きな人に不意を突かれてときめいてしまうとなんだか悔しく思ってしまうし、その意趣返しに無茶苦茶な遊びに付き合わせようともする。
なのに、そんなアタシを見つめるきみの目は、アタシと同じくらいに赤く燃えていて。
馬鹿馬鹿しいくらいに、アタシを諦めないでいてくれる。
726/08/11(火)01:13:51No.1457386332+
アタシを好きだと初めて言ってくれた日も、きみはこんな目をしていたっけ。
ほんとにずるいな、きみは。
殺し文句だよ、それ。
826/08/11(火)01:14:03No.1457386366+
脚を止めたアタシと彼の距離は縮まる一方だ。それでも彼はいつアタシがまた走り出すかもわからないから、必死でその差を埋めようとしている。
それでもアタシが買い物袋を地面に置いて両の手を空けたときは、流石の彼もその表情を困惑の色に染めた。けれど、全力疾走を続けている彼の身体には、もはやそれに急ブレーキをかけるだけの力は残っていない。
勢い余った彼の身体は、そのままアタシの腕の中に見事なゴールインを決めた。

やっぱり、アタシに逃げは向いていない。
追いつかれることが、こんなにも嬉しくて仕方ないのだから。
926/08/11(火)01:14:17No.1457386433+
たとえきみが何が起きているかを呑み込めていなかろうと、きみを離すつもりはない。勝者にはご褒美がなければいけないからだ。
「…捕まっちゃったね」
「…なんで」
腕の中のきみの身体も、両手を添えた頬も、なにもかもが熱い。どくん、どくんというきみの心臓の音が、アタシの身体の奥でも響いている。
沈む夕陽に照らされて、なにもかもが燃えている。その熱と息吹で、アタシも灼かれていたい。
だから、その炎をちょうだい。
全部残さず、啜ってあげるから。

きみに点いた炎の味は、ほんの少ししょっぱかった。汗ばんだ唇同士を離して紡いだ言葉に、少しでもその熱が伝わっていればいいのに。
「きみに捕まえてほしいって思っちゃった」
負けた、とはあまり思っていない。アタシのゴールしたい場所が、きみの隣に変わっただけだ。
きみと同じ炎で、一緒に燃えてしまいたいから。
1026/08/11(火)01:14:30No.1457386475+
砂浜に降りると、太陽と海もアタシたちと同じように触れ合っている。アタシたちと彼らしか世界に恋人がいないように、夕暮れの浜には誰もいなかった。
「なんでもいいよ」
重ねて、彼の耳元でそう囁いた。本当に何を言われてもいいと思っていたからだ。
彼の炎に、今日は骨まで焼かれようと決めている。
「…夕陽を見るシービーのこと、写真に撮りたい。浜辺のいちばん綺麗なところ、教えてよ」
アタシの頭を撫でる彼の声音はどこまでも優しいものだった。だが、本当のことを言えばもっと欲を剥き出しにした答えを期待していた。
彼の優しさをアタシはどこまでも愛しているけれど、今はもっとわがままになってほしいのだ。
1126/08/11(火)01:14:41No.1457386506+
彼にもう一度火をつけるために、もう一本薪を焚べてみる。
「お父さんはこういうときに、プロポーズしたって聞いたことあるけど」
彼の顔から湯気が立つ音が聞こえたような気がした。手で顔をくしゃくしゃと覆う仕草は可愛らしいけれど、今は彼の顔が見たい。
そっと彼の手にアタシの手を重ねると、隠れていた彼の瞳が見える。
「それは、お願いするんじゃ意味ないから。
シービーがほんとにそうしたいって思ってくれないと」

見つめられただけで、身体が熱くなるのがわかる。
なんだ。もうとっくに燃え盛っていたんじゃないか。
1226/08/11(火)01:14:52No.1457386531+
「アタシも、お願いしていい?」
何も言わずにこくりと頷いた彼の瞳が、熱に浮かされたように蕩けている。寄せては返す波のように、やわらかな光をその中で揺らしながら。
「そのままでいて」
驚いたように見開かれたきみの目を、頬を押さえて覗き込む。
太陽が、もうひとつある。その炎に灼かれて溶けてしまった女の顔が、その中に映っている。
「…今のきみの目、すごく綺麗。
夕陽を閉じ込めた宝石みたい」

アタシが見つけてアタシが磨いた、アタシだけの宝石。触らせるのも見せるのも、誰にも許したくない。
「…誰にも見せたくないな」
綺麗なものは、誰が見ても綺麗だと思っていたのに。
こんなに独り占めしておきたいものができるなんて、思ってなかった。
1326/08/11(火)01:15:03No.1457386569+
夕映えの海に、一羽のかもめが水平線を指して飛んでいる。あのかもめのようにどこまでも行けたらと、アタシはずっと思っていた。
「…もう、今日はシービーしか見えないよ」
きみはアタシの海。だから、ずっと一緒にいてよ。
同じ太陽に、頬を灼かれながら。
1426/08/11(火)01:15:09No.1457386587+
1526/08/11(火)01:15:28No.1457386636そうだねx1
おわり
CBとひと夏の思い出を作りたいだけの人生だった
1626/08/11(火)01:20:08No.1457387487そうだねx1
自分も他人も縛るの大嫌いな女の独占欲からしか得られない栄養素がある
1726/08/11(火)01:22:17No.1457387877+
やけに帰りが遅くなってエースに「ほどほどにしとけよー」って言われる
1826/08/11(火)01:29:48No.1457389104+
マルゼンが黄色い声出してそうなシチュだ
1926/08/11(火)01:39:29No.1457390528+
離れたくなくてふたりでトレーナー室で寝ててほしい
2026/08/11(火)02:55:09No.1457398180+
レースでは勝ちたいけど好きな人には追いついてほしい
ウマ娘の心は複雑
2126/08/11(火)03:08:00No.1457398908+
CBは常識に縛られたくないので気持ちが動くと人前でもくっつこうとする
だめだよといっても聞かないので秘密にしておいたほうが楽しいだろと言い聞かせなければならない

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